視線を校正する
顔や瞳孔の個人差を補正し,HMD上の提示位置と視線位置を対応付けます.

ヘッドマウントディスプレイと高速視線計測を組み合わせ,より負担の少ない視野検査を目指す研究.
Development of High-Performance Visual Field Tester Based on the Eye Movement — 画面の刺激を見つけた際の眼球運動を使って,視野の見え方を自動的に推定するシステムです.
視野検査では,視界のどこまで見えているか,どの部分が見えにくいかを調べます.一般的な検査は,顔や頭を固定し,光が見えたかどうかを本人が申告するため,負担や回答のばらつきが課題です.
本研究では,目が刺激に向かって動く反応を検出することで,ボタン操作や厳密な頭部固定に依存しにくい新しい測定方法を検討しました.
専用のヘッドマウントディスプレイ(HMD-VT)内に眼球撮影用の赤外線カメラと光学系を備え,広い範囲に提示した視標に対する眼球運動を計測します.

| 項目 | 仕様・方法 |
|---|---|
| 表示方式 | HMD内の左右画面に視標を提示 |
| 視野範囲 | 約90°の広視野 |
| 視線計測 | 赤外線カメラによる眼球・瞳孔追跡 |
| 撮影速度 | 240 fpsで瞳孔抽出を実施 |
| 校正方式 | 1点視線キャリブレーション |
| 判定情報 | サッカード潜時(視線移動開始までの時間)と回数 |
| 視野測定 | 提示刺激に対する視線反応を分析 |
出典:論文 Section 3.HMD-VTは研究用の試作システムです.
従来の多点校正では数多くの視標を順に見てもらう必要があります.提案方式は,あらかじめ求めた変換情報を使い,最小限の校正点から視線位置を推定します.

顔や瞳孔の個人差を補正し,HMD上の提示位置と視線位置を対応付けます.
広視野に配置した刺激を短時間表示し,視線が向かうかを計測します.
サッカードの潜時と回数をもとに,刺激が見えているかを推定します.


視野異常のない参加者を対象に,広い視野内に提示した視標に反応できるか,検査をどの程度の時間で完了できるかを調べました.
| 参加者 | 健常者10名 |
|---|---|
| 平均年齢 | 23.2歳 |
| 視標 | 76点 |
| 測定視野 | 約90° |
| 視標表示時間 | 800 ms |
| 実施回数 | 連続3試行 |
| 平均検査時間 | 約14分/人 |
|---|---|
| 初回の確認率・左眼 | 94.5% |
| 初回の確認率・右眼 | 95.3% |
| 2回目までの確認 | 多くの視標で反応を確認 |
| 身体的負担 | 頭部固定を不要にする設計 |
論文 Section 4–5,Table 3.確認率は健常者の視標への反応割合で,視野障害の診断感度・特異度ではありません.
| 校正方式 | 左眼 | 右眼 |
|---|---|---|
| 25点校正 | 1.34° | 1.37° |
| 1点校正・全データ | 3.30° | 3.80° |
出典:論文 Table 1・2.誤差は小さいほど良好.提案した1点校正は簡便ですが,25点校正と比べると平均誤差が大きくなりました.
76点の視標に対する反応を調べ,視野の広い領域を一連の測定で確認できる可能性が示されました.校正の簡素化により,特に従来法で視線校正が難しい人への応用が期待されます.
一方,1点校正の精度には改善余地があり,本研究は健常者による試作装置の評価です.視野障害を持つ患者に対する診断性能は,この実験だけでは確立していません.
眼球が刺激へ動き始めるまでの時間(サッカード潜時)を,視野の各位置で測定しました.こうした位置ごとの計測から,中心と周辺での視線反応の違いを調べられます.

| 視野の領域 | 左眼 | 右眼 |
|---|---|---|
| 領域 I | 204.30 | 205.50 |
| 領域 II | 198.60 | 198.20 |
| 領域 III | 207.15 | 206.45 |
出典:論文 Table 4.各領域の平均値であり,個人の臨床判定値ではありません.
Katsuyoshi Hotta, Oky Dicky Ardiansyah Prima, Takashi Imabuchi, Masashi Kameda
The Journal of the Institute of Image Electronics Engineers of Japan, Vol. 50, No. 3, pp. 392–401 (2021).