人物の表情を撮影
6種類の基本表情を演じた顔の画像・動きを記録します.

人物の表情をデジタルヒューマンに転写したとき,怒り・喜び・驚きなどの表情はどこまで正確に再現されるのか.AI表情認識で検証した研究.
A Study on the Quality of Facial Expression in Digital Humans — 実写の人物と仮想人物を同じ条件で評価し,表情の再現に残る課題を明らかにしました.
デジタルヒューマンは,接客,医療,VRコミュニケーションなどへの利用が期待されています.しかし顔の外見が実物に近くても,微妙な表情の変化まで自然に伝わるとは限りません.
本研究では,人物の表情を仮想人物へ移し,AI表情認識が同じ感情表現として読み取るかを比較しました.これは人の主観評価ではなく,認識モデルを用いた客観的な比較の試みです.

MetaHuman CreatorとUnreal Engineを使用して人物に似せた3Dモデルを作成.iPhoneのLive Link Faceと,通常のカメラ映像から顔の動きを取得するMeFaMoを使用しました.
6種類の基本表情を演じた顔の画像・動きを記録します.
顔の動きをMetaHumanに反映し,対応する表情画像を生成します.
DeepFaceとHSEmotionが実写と仮想人物の表情をどう判断するかを調べます.
| 役割 | ツール・技術 |
|---|---|
| デジタルヒューマン作成 | MetaHuman Creator・Unreal Engine |
| 俳優の表情取得 | Live Link Face(LLF,30 fps) |
| 多視点表情の取得 | MeFaMo(MediaPipeベース) |
| 表情認識器① | DeepFace |
| 表情認識器② | HSEmotion(enet_b2_8.pt) |
| 分析する表情 | 怒り・恐怖・嫌悪・喜び・悲しみ・驚き(多視点では無表情を追加) |
出典:論文 Section III–IV.表情認識モデルの出力は感情そのものの真値ではありません.
表情の見え方はカメラの角度でも変わります.研究では21台のWebカメラを並べ,同一人物の顔を複数方向から同時に撮影する装置を構築しました.

| 協力者 | 日本人女性1名,22歳 |
|---|---|
| 表情 | 基本6表情 |
| 各表情の時間 | 5秒 |
| 撮影速度 | 30 fps |
| 画像数 | 人物・デジタルヒューマンそれぞれ計900フレーム |
| カメラ | 21台(3行×7列) |
|---|---|
| 解像度 | 640×480 px,30 fps |
| 水平方向 | −30°~+30°,10°刻み |
| 垂直方向 | −20°・0°・+20° |
| 協力者 | 17名,18~22歳 |
| 取得した顔画像 | 計2,142枚 |

俳優の表情に対するAIの判定は比較的良好な種類がありましたが,同じ表情をデジタルヒューマンへ転写すると誤判定が増えました.とくに喜び以外の表情の再現と判定に課題が見られました.
| 表情 | 実際の人物 | デジタルヒューマン |
|---|---|---|
| 怒り | 87% | 算出不可 |
| 恐怖 | 100% | 算出不可 |
| 嫌悪 | 0% | 算出不可 |
| 喜び | 100% | 100% |
| 悲しみ | 96% | 算出不可 |
| 驚き | 73% | 算出不可 |
論文の混同行列に記載された値.デジタルヒューマンの「算出不可」は,当該表情に対応する評価フレームが表に示されずNaNになったものです.0%と同義ではありません.
| 認識器 | 実写人物の多方向撮影 | 転写した仮想人物の評価 |
|---|---|---|
| DeepFace | 角度によって推定結果が変動しやすい | 多くの表情を適切に認識できず |
| HSEmotion | 水平方向の変動が比較的小さい | 表情の誤認識が目立つ |
出典:論文 Tables V–XII.ここでの「安定性」は撮影角度を変えたときの認識出力の変動の小ささで,必ずしも正答率の高さを意味しません.

人物の表情認識技術を,そのままデジタルヒューマンの品質評価に使うだけでは十分ではありません.論文は,実写とデジタルヒューマン双方の特徴を考慮した評価モデルの必要性を示しています.
また,研究で使ったMetaHuman画像は利用条件により再学習データへ利用できず,モデルの追加学習を行えていません.今後は適切なライセンスの表情データを用いる必要があります.
Shiori Kikuchi, Hisayoshi Ito, Oky Dicky Ardiansyah Prima
International Journal on Advances in Life Sciences, Vol. 14, No. 3 & 4, pp. 110–119 (2022).